硬さ計についてデュロメータを中心に、日頃のお客様からの質問に対し、お答えしている事などをま とめてみました。何かの御参考になれば、幸いです。
目 次
「硬度」と「硬さ」
硬さ試験について
硬さ試験の種類
デュロメータという呼称
デュロメータによる硬さ測定のしくみ
デュロメータの種類 JIS K 6253-1997/ISO 7619のデュロメータ
旧JIS K 6301のスプリング式硬さ試験機
SRIS 0101のスプリング式硬さ試験機
ASTM D 2240の各デュロメータ
その他のデュロメータ
国際ゴム硬さ(IRHD)の試験
IRHDポケット硬さ試験
「硬度」と「硬さ」
どちらも「物体の硬軟の程度」を意味する言葉ですが、「硬度」には、水の性質を示す「硬水」「軟水」という表現の元になる、水中の酸化カルシウムの溶解 度の意味もあり、これと区別するため「物体の硬軟の程度」に対しては「硬さ」を用いるべきとするのが一般的です。JIS各規格では、「硬さ」で統一され 「硬さ試験機」などと用いられています。一般の技術文書でもほぼこれが守られているようです。しかしながらカタログなどでは必ずしも統一されておらず、と くに商品の名称としては「硬さ試験機」「硬さ計」と「硬度計」の両方が使われています。当社カタログでも流通でなじみの深い「ゴム硬度計」という呼称を用 いています。(なお、以下の文書では「硬さ」を用います。)
硬さ試験について
「硬さ、軟らかさ」というのは物質の持つ特性の一つですが、人間はこれを感覚的に相対比較を行なって「硬い、軟らかい」と表現します。これを何らかの手 段を用いて数値化するのが「硬さ試験」であり、その手段を実用化したものが「硬さ試験機」です。
硬さそのものが物理的・力学的な考察の対象となることは余りありませんが、ほかの物理的性質(例えば引張強さ)や状態(例えば水分含有量)と一定の関係 を持つことが多く、これらを管理・評価するときの代替値として硬さが用いられます。硬さ試験は、通常、元の物性・状態を測定する試験に比べ容易に短時間で 行なえるため、とくに現場での試験として広く実施されています。もちろん、元の物性・状態を意識することなく、単に「この程度の硬さのものがほしい」とい う場合にも、硬さ試験は、有効な管理評価手段として用いられています。
硬さ試験の種類
一般に硬さ試験の対象となるのは、硬い方は硬化処理された金属材料から、軟らかい方はクッション材のような非常に軟らかい発泡材料までと思われます。こ れらを使用される硬さ試験機で分けると鉄鋼・非鉄などの金属とゴム・合成樹脂などの高分子材料に大別できます。さらに高分子材料でもスポンジやフォームな どの発泡状のものでは、ソリッド状のゴム・プラスチックとは別の硬さ試験機が用いられています。
金属用の硬さ試験としては鋼球や、ダイアモンドの角錐あるいは円錐の圧子を、仕上げた被測定物の表面に押付けて、その変形量を測定する方 法が最も一般的です。この方法による硬さ試験として「ブリネル硬さ」「ビッカース硬さ」「ロックウェル硬さ」 などの各試験があり、圧子のサイズあるいは押付荷重を段階的に変えることでいろいろな硬さをカバーしています。このほかに、ある高さから硬い物体を被測定 物の表面に落下させて、そのはね返り高さを測定する「ショア硬さ」があります。
一方、ゴム・プラスチック用の硬さ試験も金属の場合と同様に、被測定物の表面に圧子(押針とかインデンタとか呼ばれる)を押込み変形さ せ、その変形量(押込み深さ)を測定、数値化する方法を採っています。押込み荷重を得る方法としてスプリングを用いた「デュロメータ硬さ」 と、分銅等による一定の静荷重を用いた「国際ゴム硬さ(IRHD*)」が一般的です。これらの試験機においても、圧子の形状・サイズ、押込 み荷重を変えることで広い範囲の硬さをカバーしています。この2つの硬さ試験のうちでもデュロメータは、ハンディタイプの簡便な硬さ計であ るため、非常に普及し、多数が使用されています。 (* IRHD International Rubber Hardness Degree)
この他に、シートクッション等の比較的大きな発泡弾性材料の硬さ試験として、円板圧子(例えば直径200mm)で被測定試料を厚さ方向に 一定量圧縮し、そのときの圧縮荷重を硬さとするものがあります。
デュロメータという呼称
デュロメータ(Durometer)という呼び名は、最初にこのタイプの硬さ計を製造販売した、米国のショア(Shore)社の商品名で あったと思われます。それが一般名化し、現在では例えば国際規格のISOでも "Type A durometer" 等と使われています。なお、デュロメータと同様の硬さ計を示す名称には、他に次のようなものがあります。
スプリング式硬さ試験機 これは1998年に廃止された旧JIS K 6301で規定された硬さ計 の名称です。この硬さ計はオリジナルのデュロメータとは、押針とスプリング荷重の定数が少し違う日本国内独自のものでした。 ショア硬さ計(硬度計) オリジナルのメーカ名をそのまま付けた呼び名ですが、とくに英文で "Shore-type durometer" とか "Shore hardness meter" と使われています。日本国内では、上記「スプリング式硬さ試験機」と区別する意味で使われることもあります。(デュロメータという呼び名もこの意味で使わ れることがあります。)また先に記した金属用の、落下はね返り高さ測定による「ショア硬さ」試験機と同じような呼び名であるため、混同しないよう注意が必 要です。
デュロメータによる硬さ測定のしくみ
図に示すように、デュロメータの押針は計器の下面(加圧面)から下方に突 出し、その上方でスプリングに連結されています。押針突出高さが最大のとき「硬さ0」を指示します。押針が加圧面に対し上方に動くとスプリングの力は増加 し、押針先端が加圧面と同一平面のとき「硬さ100」を指示します。
測定は押針と加圧面を試験片の表面に押付けて行ないます。押針は、スプリングの力で試験片にくい込んで変形を与える一方加圧面に対し上方に動き、スプリ ングの力と試験片の弾性による力がバランスすると停止します。 このときの押針移動量が、その試験片の「硬さ」となります。この押針移動量をギャを用いた変位拡大機構で拡大し、ダイヤル上の指針で「硬さ」の値として読 取ります。
デュロメータで得られる硬さ測定値に、単位はありません。またデュロメータには測定対象の硬さに応じたタイプがあり、目盛範囲はどのタイプも 0〜100です。タイプにより異なる押針形状、スプリング荷重が規格で定められ、その測定値は、各タイプごとの相対比較値として、硬さを数値化したもので す。したがって、タイプが異なるデュロメータの測定値を同一線上に並べて比較はできません。 測定値を表示する場合は、数値だけでなく、デュロメータのタイプも表示する必要があり、各規格で表示方法を規定しています。(例:A55 詳細は各規格を ご参照ください。)![]()
デュロメータの種類
JIS K 6253-1997/ISO 7619のデュロメータゴムの硬さ試験に関する規格であるJIS K 6253-1997には、測定対象の硬さに応じて使い分ける3種類のデュロメー タが規定されています。(製品紹介ページの仕様一覧表をごらんください。)この3種類のう ち、中硬さ(一般ゴムなど)用のタイプAと高硬さ用のタイプDは、国際規格であるISO 7619と整合して います。低硬さ用のタイプEは、現在のところJIS規格独自に規定されたもので、ISOには規定されていませんが、ISOへの採用を日本が 提案しています。タイプAとタイプDの2種類のデュロメータは、上記の2規格以外にもいくつかの規格で規定されており、その内容はほぼ共通になっていま す。それらを列記しておきます。
JIS K 7215 プラスチック業界向けのJIS規格 ISO 868 ISOのプラスチック委員会による国際規格 ASTM D 2240 米国材料試験協会規格 DIN 53 505 ドイツ規格(押針寸法やスプリング荷重の許容精度が、他規格より厳しい) BS 903:Part A57 英国規格 旧JIS K 6301のスプリング式硬さ試験機
ゴム試験の総合規格であった旧JIS K 6301で規定された、スプリング式硬さ試験機A形は、測定対象の硬さとしては上記 タイプAデュロメータと共通ですが、スプリング荷重と押針の高さの値が若干異なり、測定値も僅かながら差があるというものでした。過去においてショア社の デュロメータを見本にJIS規格の硬さ試験機を制定するに当たって、スプリング荷重値をインチ・ポンド系からCGS系に換算後、数値の丸めを行なったこと とか、当初、 ショア社のデュロメータをそのまま規格化した米国規格ASTM D 2240の内容が、国際化 の流れに沿って改訂されたことが、この差異の要因と考えられます。
類似した2種類の硬さ計のある状態が、長期にわたって問題となっていましたが、国際規格ISOと整合したゴムの硬さ試験規格として、JIS K 6253が新たに制定され、その後JIS K 6301は1998年に廃止されました。公的な規格の上では明確に一本化されたといえます。しかしながらこの硬さ計は、日本国内では過去に多数生産され使 用されており、おそらく現在でも国内に存在する硬さ計は、このタイプが最も多いのではないでしょうか。また商品として、現在も数社のものが流通していま す。
同じ規格のスプリング式硬さ試験機C形は、硬質ゴム、エボナイトの硬さ測定用として規格化されていたもので、これは、A形以上にJIS規 格独自のものでした。特定の用途で便利な硬さ計として使用されています。SRIS 0101のスプリング式硬さ試験機
SRIS 0101は日本ゴム協会標準規格の一つで膨張ゴム(スポンジなど)の試験方法に関する規格です。この硬さ計は、タイプAデュロメータやスプリング式硬さ試 験機A形では測れない(測りにくい)軟質材料の硬さ測定用で、SRISに規格化される前から、アスカーC型硬度計として広く使用されてきた ものです。測定対象としてはスポンジ、ウレタンフォームなどの発泡材料、軟質ゴムなどのほかに、繊維の巻糸(チーズ、コーン)の巻張力やプラスチックの フィルムロールの巻張力の代替値としての硬さ測定用に用いられています。
JIS K 6253のタイプEデュロメータは、低硬さ用の硬さ計として、このスプリング式硬さ試験機を基本にし、将来におけるISOへ の提案などを考慮し、スプリング荷重をタイプAデュロメータと共通にするなどの修正を加えて規格化されたものです。ASTM D 2240の各デュロメータ
ASTM D 2240にはタイプA、タイプDのほかに5種類のデュロメータが規定されています。それらの概略は次の通りで す。
タイプB、タイプCおよびタイプDO
これらは、いずれも測定対象の硬さとしては、タイプAとタイプDの中間に位置するものです。タイプCは旧JIS K 6301のスプリング式硬さ試験機C形と類似しています。 タイプOおよびタイプOO
この2タイプは、タイプAより軟らかい材料を測定対象とし、タイプOOがより軟らかい範囲をカバーしています。測定対象として は、JIS K 6253のタイプEと類似していますが、得られる測定値は、かなり異なります。 その他のデュロメータ
上記各デュロメータの他にも、公的規格には規定されていないものの、各硬さ計メーカが自社のオリジナルとして開発したものや、ユーザーの特定 用途に使いやすいように製作されたものがあり、これらはいずれも基本的には、押針(圧子)の寸法形状とスプリング荷重を様々に変更して、目的に合わせたも のです。
国際ゴム硬さ(IRHD)の試験
硬さ試験の種類のところでも記しましたが、国際ゴム硬さ(以下IRHDと いう)試験では、試験片に変形を与える押込み荷重として分銅等による一定の静荷重を用いています。このような原理の「定荷重式硬さ試験機」 としては過去に数種類の試験機が各国の規格等にありましたが、現在ではこの国際ゴム硬さ試験が主流となりつつあると思われます。国際規格としてはISO 48がこの試験を規定しておりJIS K 6253やその他の各国規格でも、ほぼISO 48と整合して規格化されています。
この試験規格の特徴は、試験片を変形させたときのインデンタ(押針)の押込み深さとIRHDのスケールの関係が直線的ではなく、「ヤング率0の材料の硬 さを"0"、ヤング率無限大の材料の硬さを"100"」とした上で、ほとんどの硬さの範囲で下記の条件を満たすように定義されていることです。
(a) 1IRHDの差をヤング率の差で比較すると、ほとんどの硬さ範囲で、ほぼ同じ比率となる。
(b) 高弾性のゴムに対しては、IRHDとタイプAデュロメータのスケールは比較することができる。
また、もう一つの特徴(欠点?)として、押込み荷重の負荷時間が30秒と規定してあり、予備荷重の負荷時間5秒と合わせると最低でも35秒以上の時間が一 点の測定に要する点があります。試験の種類としては、試験片のサイズと硬さによって、次の4種類があります。
H法(高硬さ用ノーマルサイズ試験)
N法(中硬さ用ノーマルサイズ試験)
M法(中硬さ用マイクロサイズ試験)
L法(低硬さ用ノーマルサイズ試験)N法を基本にして、球状インデンタのサイズを小さくしたのがH法、大きくしたのがL法です。また、N法の約1/6の縮少形で小形、薄形の試験片 に対応したのがM法です。
IRHD硬さ試験は、得られる硬さデータの精度、信頼性は高い一方、装置は通常机上設置形で持ち運びしにくく、高価でもあるため、デュロメータのような 簡便性はありません。試験の目的に応じて使い分ける必要があります。
IRHDポケット硬さ試験
IRHD硬さを簡便に測れるように考案された試験で、国際規格ではISO 7619に国内規格ではJIS K 6253に 規定されています。試験機としては、デュロメータによく似ていますが、押針を介して試験片に変形を与えるばねの力が、押針のストローク範囲で一定であるよ う規定しています。実際の製品では、うず巻ばね等をたわみの変化の微少な範囲で使用した、近似的な定荷重ばねを用いています。また押針の押込み深さと IRHD硬さの相関は定義されておらず、IRHD硬さ計としての校正は、IRHD硬さが既知の標準ゴムブロックを用いて行なうこととなっています。